生ビールの味は注ぎ方で変わる
「旨い生ビールで広島を元気に」「おいしいビールは日本を元気にする」
こんなメッセージを発信しているのが、広島にあるビールスタンド「重富酒店」の店主・重富寛さん。重富酒店は昭和初期のサーバーを用い、注ぎ方を変えることで何種類ものビールを提供する、ビール好きにとっての「聖地」。
コロナ禍を経て、開店前に行列ができる光景も戻ってきた。1時間以上待ってから初めて重富酒店のビールを飲んで「いつも飲んでるビールと味が違う」と驚く客も少なくない。
「今、ワインやカクテルを出すプロはいますが、ビールを出すプロっていないですよね。ビールを注ぐ人は一番多いんですよ。でもビールの注ぎ方はどこも同じで、プロというのはいません。
ただ、日本の戦後にはお燗番やビール注ぎというプロがいましたよね。それは同じビールでも、注ぎ方で味を変える飲み方と文化があったからなんです」
こうした言葉の通り、1種類のアサヒ生ビールの注ぎ方を変え「1度つぎ」「2度つぎ」「3度つぎ」「マイルドつぎ」「シャープつぎ」といった複数のメニューを提供する。
日本トップレベルのビールを注ぐために
先日はG7広島サミットの「国際メディアセンター」が設置された広島グリーンアリーナにも出店するなど、おいしいビールを一人でも多くの人に“伝道”する重富さんは、コロナ禍を経て改めて「ビールファンを作ることが自分の役割」だと見直したという。
「YouTubeで動画を出したり、Voicyで情報発信したり、ビールファンを増やすためにできることに力を入れています。飲食店さん向けにも『美味しいビールを注ぐ秘訣』の動画をまとめましたが、これをやるだけで日本でトップクラスのビールが出せると思いますよ」
こうした取り組みは飲食店関係者にも多くのフォロワーを生んでいるが、講習会を受けた飲食店からは「お客さんの反応が違った」など手応えを喜ぶ声も多く聞かれるという。
「ビールの注ぎ方一つでお客さんは集まるんです。1日の最初の飲み物はお客さまにとっての“ファーストキス”。そこに一番力を入れるのが当たり前ですよね。私の店には毎日最初の一杯を求めてお客さまが集まっています。そのやり方も教えてるので、マネしてほしいですよね」
今後もビールの伝道師として、飲食店、そして飲み手であるお客さんにビールとの向き合い方を伝えていきたいという。
「今日1日を終わらせるのが“スイッチオフ”のビールの役割。日常は日常でスイッチを切らないといけないですよね。日本中のビールが変われば、日本の仕事終わりが変わります。日本の明日は変わります」
注ぎ方が注目されることが多いが、ビールはもっと広く、真似できることは真似してほしいと話す。
「ビールのおいしさというのは、見た目、口当たり、喉ごし、味わい、後味、店の雰囲気、店員の会話、お客さまの雰囲気、といったものでできます。うちの場合はこの8つで売っているから、お客さまに選ばれると思います。飲食店の方は『味』だけで売っているところも多いですよね。でも、ありとあらゆることを考える必要があるのがビールです。
ただ一つ忘れてはいけないのは、どれだけこだわってもビールはあくまで“脇役”ということ。主役は飲み手の人生です。これは私がずっと持ってきたコンセプトです」
広島を訪れた際には、ぜひビールの違いを体験してほしい。
この記事の著者
ライブドアグルメ編集室
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