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インテリアに凝っていて、立ち食い蕎麦屋にしては広い店内は、中央に不忍池が蓄えられている。広さを生かさずじまいで、客は睡蓮の代わりに海苔が散った水面を眺めながらもくもくと蕎麦をすすっている。昼時には付近の店から嫉妬されそうな大行列ができるが、そこはGlassdoorが11000社の中から選んだ「いい会社」ランキング、ベストテン入りを果したVirtual Solution社(ここで半年間働いていた)のこと、昼食は11時過ぎだろうと2時前だろうとかまわない。港屋に行ってやるか、と思えば昼食の時間は1時55分と決める。店内に待ちの客はいるが、これは順番待ちであって行列ではないから、非行列主義に反しているわけではない。真っ暗で最初どこで注文するのかもわからなかった。お化け屋敷みたいに中ほどの低い位置に蝋燭が点っていて、ぬっと人が顔を出した。ひゃっ!と叫んでしまったがこの人が注文を取る係で、少しは明るい釜場の方で顔を確かめたら、ニンフとは言えないまでもなかなかの女子で、さっき幽霊と間違えたことを多少悔やんだ。順番が進んで奥の横長の厨房スペースに達して、鉤型の箇所で一つ詰めるように指示を出した洗い場の女子もどうしてなかなかで、トータルコンセプトの一環をなしているようにも感じられる。ただ、背伸びしなくても丸見えの仕込みはかなりあらっぽい。住み込みの土方に飯を食わせるという風だが、荒削りの中に鉱脈を探り当てた自信が垣間見える。流水にさらした極太麺を大きめの丼にたっぷり盛り、寸胴ではない荒物屋の安売りセールで見つけたような薄手のアルミ製(またはアルマイト製)大鍋から湯気を立てる骨なしぶつ切り鶏肉をお玉ですくい、一回り小さな丼に3回4回と移し、駄目押しで汁だけを表面張力が生じるほど流し込み、これで終わりかと思えば、今度は狂ったように大量のラー油と白ゴマを振りかける。麺には冗談としか思えないほど刻み海苔を高く盛り上げるが、「ざる」もメニュにあって、その時はこの量がさらに倍に膨れることになる。二つの丼をのせたお盆は重い。麺と汁はもちろん器の重さもあるのだ。そう、けっこういい器を使っていて、髭の若店主の生活背景的側面に興味をかきたてられる。いろいろな意味で趣味人なのだろうし、開けっぱなしの外から吹き込む風で海苔がどんどん飛ばされ水面に飛来し、ふざけんじゃねー!と思ったりもするが、3割くらいはハッタリにしても、異才ぶりにはやはり一目置かなければならない何ものかがある。汁は激濃激甘、取り放題の卵をとって白身で汁を薄めてやらないと蕎麦が喉を通らない。辛味が千本の矢になって口中を責め立て、小丼を持てば指先はこのごま油ベースの餌食となり(何度もティッシュを持たなかったことを後悔した)、白ごまが歯に当たり過ぎてじゃりじゃり音を立て、新しく割り込んできた客に脇腹を小突かれ、食事が済んだら済んだで、これから蕎麦を受け取る客と、背中を向けて蕎麦をすする客との30センチあまりの隙間を通り抜けて冷や汗を掻きながら洗い場にお盆を下げに向かうのだから、人間をやめたくなるぐらいに悲しくなるが、若主人の「いらっしゃいませー」「ありがとうございましたー」がやたらと軽やかで、なんとか心が折れることをまぬがれる。行くなら断然夜の部がお奨め。
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そば処港屋 赤坂(虎ノ門)/ そば[ 平均:
4.0pt ]
インテリアに凝っていて、立ち食い蕎麦屋にしては広い店内は、中央に不忍池が蓄えられている。広さを生かさずじまいで、客は睡蓮の代わりに海苔が散った水面を眺めながらもくもくと蕎麦をすすっている。昼時には付近の店から嫉妬されそうな大行列ができるが、そこはGlassdoorが11000社の中から選んだ「いい会社」ランキング、ベストテン入りを果したVirtual Solution社(ここで半年間働いていた)のこと、昼食は11時過ぎだろうと2時前だろうとかまわない。港屋に行ってやるか、と思えば昼食の時間は1時55分と決める。店内に待ちの客はいるが、これは順番待ちであって行列ではないから、非行列主義に反しているわけではない。真っ暗で最初どこで注文するのかもわからなかった。お化け屋敷みたいに中ほどの低い位置に蝋燭が点っていて、ぬっと人が顔を出した。ひゃっ!と叫んでしまったがこの人が注文を取る係で、少しは明るい釜場の方で顔を確かめたら、ニンフとは言えないまでもなかなかの女子で、さっき幽霊と間違えたことを多少悔やんだ。順番が進んで奥の横長の厨房スペースに達して、鉤型の箇所で一つ詰めるように指示を出した洗い場の女子もどうしてなかなかで、トータルコンセプトの一環をなしているようにも感じられる。ただ、背伸びしなくても丸見えの仕込みはかなりあらっぽい。住み込みの土方に飯を食わせるという風だが、荒削りの中に鉱脈を探り当てた自信が垣間見える。流水にさらした極太麺を大きめの丼にたっぷり盛り、寸胴ではない荒物屋の安売りセールで見つけたような薄手のアルミ製(またはアルマイト製)大鍋から湯気を立てる骨なしぶつ切り鶏肉をお玉ですくい、一回り小さな丼に3回4回と移し、駄目押しで汁だけを表面張力が生じるほど流し込み、これで終わりかと思えば、今度は狂ったように大量のラー油と白ゴマを振りかける。麺には冗談としか思えないほど刻み海苔を高く盛り上げるが、「ざる」もメニュにあって、その時はこの量がさらに倍に膨れることになる。二つの丼をのせたお盆は重い。麺と汁はもちろん器の重さもあるのだ。そう、けっこういい器を使っていて、髭の若店主の生活背景的側面に興味をかきたてられる。いろいろな意味で趣味人なのだろうし、開けっぱなしの外から吹き込む風で海苔がどんどん飛ばされ水面に飛来し、ふざけんじゃねー!と思ったりもするが、3割くらいはハッタリにしても、異才ぶりにはやはり一目置かなければならない何ものかがある。汁は激濃激甘、取り放題の卵をとって白身で汁を薄めてやらないと蕎麦が喉を通らない。辛味が千本の矢になって口中を責め立て、小丼を持てば指先はこのごま油ベースの餌食となり(何度もティッシュを持たなかったことを後悔した)、白ごまが歯に当たり過ぎてじゃりじゃり音を立て、新しく割り込んできた客に脇腹を小突かれ、食事が済んだら済んだで、これから蕎麦を受け取る客と、背中を向けて蕎麦をすする客との30センチあまりの隙間を通り抜けて冷や汗を掻きながら洗い場にお盆を下げに向かうのだから、人間をやめたくなるぐらいに悲しくなるが、若主人の「いらっしゃいませー」「ありがとうございましたー」がやたらと軽やかで、なんとか心が折れることをまぬがれる。行くなら断然夜の部がお奨め。