ひげおじさんさんの自己紹介
パスタはフォークの登場で一段と進化した、とイタリア人は考えている。しかしパスタの起源は手食にある。フォークの使用が一般化してもそのルーツは抹消されずにいて、麺にいかにして細かく切った具材が混ざるか、に修練した長い歴史が、こんにちのイタリアのパスタ文化の栄華を築いたといっても過言ではないだろう。イタリアといえば、パスタと同じくピザの人気も高い。こちらはカトラリーがテーブルにセットされることのほうが多いとはいえ、実際には使用頻度は低く、おおまかに切ってから手で伸びるチーズを絡めるようにして食べるのが一般的だろう。パスタよりもピザのほうが手食に近い、手食の原型をとどめた料理と言える。パスタとピザを比較すると、パスタのほうが、料理としては格上なのを認めなくてはならない。ただし、その根拠は、フォークを使用するからでは決してない。パスタは――この場合、ラビオリ、ラザーニャなどを除く――麺同士が網目を形成し、切った具材がこのネットで掬われる格好になるため、摂食手段としてフォークが普及したとはいえ、手食の利点を最大限に生かした料理であることを忘れてはならない。
ここでもう一度パスタかピザかに戻れば、パスタもフランス、アメリカ、アルゼンチンやブラジルなどの南アメリカ、スペイン、ギリシャ、トルコ、中東の一部(それと日本)にまで広がったが、ピザの普及範囲は間違いなくこれを超えている。まあ、どちらがどうというより、手食に近い料理は、それだけ人気が高く、どの国でも受け入れられるということの現れだ。
ピザは、そのファースト的性格ばかりが取り上げられてしまうが、これはトルコのビデを元にした料理だ。言い方を換えれば、ヨールッパでイスラム圏にもっとも近い国の一つであるイタリアには、手食を起源とする料理が発達したということになる。フォカッチャはエキメックに由来するだろうし、リゾットもトルコから湾岸諸国にかけての米料理を元にしているはずだ。ロシアにはハチャプリというピザ風のパン料理があるが、これもトルコからグルジアを経由して広まった料理だという。
稲作漁労文明(東アジア、主に仏教を信仰)に近接する国インドには、ナッツやドライフルーツ(いずれも細かく切り分けられたものを使用する)をちりばめたカシミリナンがあるが、これとピザやビデとの連関性は明らかではないし、チーズナンは恐らくアングロ・インディアン(英国からの逆輸入インド料理)だろう。しかし、小麦を主食とする国々の食文化の中心には、手食をもとにした料理の太い幹が走っており――しばしば見えなくなるが――、それは現在でも手のみを使うか、カトラリーの使用を最小限度に抑えた文化圏から発生し、遠くロシアやヨーロッパ全域まで拡大したと考えられるのだ。
トルコからアフガニスタン、パキスタンまではイスラム、インドはヒンズー、その東のバングラディッシュはふたたびイスラムの国になって、ここで小麦の文化圏(牧畜狩猟文明)がいったん終わる。同時に手食から箸の文化圏に入る。手食文化圏の東の端、バングラデシュには多種多様な米の文化があり、長粒種と短粒種の両方が栽培されているため、ビリヤニと総称される、日本人とってのインド的ないわゆるカレーっぽい米料理が特に発達している。
その境界線を越えると、手食から箸(スプーンを併用)へと移行し、発酵系調味料が味付けの主役になり、料理の様相が劇的に変化する。そして、西から東への流れを一つの帯として眺めれば、小麦と米、手食と箸、キリスト教とイスラムまたは仏教、非発酵系調味料と発酵系調味料という差違が、一見すると、文化および文明、宗教、食の作法、調味方法の差違と対応し、明確な線引きができるように思われる。
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揚子江 多摩/ 中華料理一般