KANA BARへの達人のクチコミ
…隠れ家の様な店…
この店を一言で表現するならば、そう呼ぶのが相応しいだろう。
初冬の夜、バレエを観劇した帰りに、久々に帰京した友人と落ち合い、
軽く食事を取る事になっていた。待ち合わせ場所は恵比寿だった。
久々の再開の挨拶と共に、これからのお店を決めなくてはならない。
「今夜のお勧めは?」
「ちょっと隠れ家みたいな飲み屋があるんだけど…」
…隠れ家…面白そうだ…
こっくり頷くと、友人の案内でタクシーに乗った。
5分程度で、表通りと異なる、少し寂しささえ感じる通りでタクシーは停まった。
「あれ?何処だったかな?」
道案内役の友人の言葉に少しだけ戸惑う。
友人は少し草臥れた感もある小さな扉の前で立ち止まる。
「あ、ここだ」
友人の言葉にホッと安堵する。
小さな扉と窓…小さく「KANA・BAR」と書かれた文字…
扉の向こうは…
薄暗い店内、小さな木の4人掛けのテーブルが一つ。
それにL字型のカウンター。
10人も入れば、一杯になりそうなこじんまりとした店内。
やや茶色くくすんだ壁には、手描きなのだろう。天使の絵が描かれている。
丁度、バレエやオペラの舞台に出てくる居酒屋の様な雰囲気だ。
少し無愛想な感じのご亭主が出てくる。
「取り合えず、ワインと食べ物を…」
「パテと…あと、パスタ…」
お任せする様に注文をする。
カウンターでは、常連と思わしきグループが思い思いの話に花を咲かせている。
ご亭主はそれに時折加わり、一掃会話が弾んでいる。
コート・ドゥ・ローヌの赤にパテが運ばれてくる。
グラスは廉価なものだが、器やカトラリーはウェッジ・ウッド。
この辺りのアンバランスさが楽しい。
パテは既製品だが、今東京では販売されていない希少品。
やわやわとした適度な舌触り、適度な塩加減。
パスタはペンネに大きなスモークベーコンの短冊が入っている。
やや塩味の効いたそれは、専門店の味ではないが、どこか家庭的で食べ易い。
遅れてやってきた友人も加わり、会話に話が弾み、料理もお酒も勢い良く進んで、
私達は2本目のワインの栓を開ける。
さっきからカウンターの方で聞き覚えのある声がする。
あの声…
そっとカウンターを見ると、見覚えのある後姿が目に入った。
間違いない、“彼”だ…
昔、一緒に働いていた事のある、彼だった。
仕事上ではクールで我儘だったが、飲むとめっぽう明るくなる彼…
性格も価値観も、私とは正反対の彼…
私は彼が大嫌いだった…
その彼との10年振りの再会。
若かった頃とそのままの彼。そして、すっかり変わり果てた私…。
彼が、帰るために立ち上がった時、
私は思わず声を掛けた。
…××さん…
思いも掛けない偶然。
たまたま友人に連れられてきたこのお店で、
大嫌いだった彼と私の10年振りの再会。
時間が一気に逆回りした。
彼も私もお互いが嫌いだった事が嘘の様に
軽い笑顔を浮かべていた。
彼が帰った後、少しだけテーブルを離れて
カウンターでご亭主とお話をした。
見た目とは違い、優しい目の穏やかな語り口。
今日見てきた舞台の事や、彼の現在…
初めてお話するのに、ご亭主は知り合いの様に
接してくれる。
常連らしい女性が一人入ってきたので、
私はまた、友人の待つテーブルに戻り、
すっかり常温になったワインを飲む。
微かに甘く、そして微かにほろ苦く…
偶然に友人に連れられてきたお店。
様々な今夜の出来事がこの一杯のワインに
凝縮されている様にさえ思えた。
そんな気持ちにさせてくれる
少し不思議な隠れ家の様なお店だった。
この店を一言で表現するならば、そう呼ぶのが相応しいだろう。
初冬の夜、バレエを観劇した帰りに、久々に帰京した友人と落ち合い、
軽く食事を取る事になっていた。待ち合わせ場所は恵比寿だった。
久々の再開の挨拶と共に、これからのお店を決めなくてはならない。
「今夜のお勧めは?」
「ちょっと隠れ家みたいな飲み屋があるんだけど…」
…隠れ家…面白そうだ…
こっくり頷くと、友人の案内でタクシーに乗った。
5分程度で、表通りと異なる、少し寂しささえ感じる通りでタクシーは停まった。
「あれ?何処だったかな?」
道案内役の友人の言葉に少しだけ戸惑う。
友人は少し草臥れた感もある小さな扉の前で立ち止まる。
「あ、ここだ」
友人の言葉にホッと安堵する。
小さな扉と窓…小さく「KANA・BAR」と書かれた文字…
扉の向こうは…
薄暗い店内、小さな木の4人掛けのテーブルが一つ。
それにL字型のカウンター。
10人も入れば、一杯になりそうなこじんまりとした店内。
やや茶色くくすんだ壁には、手描きなのだろう。天使の絵が描かれている。
丁度、バレエやオペラの舞台に出てくる居酒屋の様な雰囲気だ。
少し無愛想な感じのご亭主が出てくる。
「取り合えず、ワインと食べ物を…」
「パテと…あと、パスタ…」
お任せする様に注文をする。
カウンターでは、常連と思わしきグループが思い思いの話に花を咲かせている。
ご亭主はそれに時折加わり、一掃会話が弾んでいる。
コート・ドゥ・ローヌの赤にパテが運ばれてくる。
グラスは廉価なものだが、器やカトラリーはウェッジ・ウッド。
この辺りのアンバランスさが楽しい。
パテは既製品だが、今東京では販売されていない希少品。
やわやわとした適度な舌触り、適度な塩加減。
パスタはペンネに大きなスモークベーコンの短冊が入っている。
やや塩味の効いたそれは、専門店の味ではないが、どこか家庭的で食べ易い。
遅れてやってきた友人も加わり、会話に話が弾み、料理もお酒も勢い良く進んで、
私達は2本目のワインの栓を開ける。
さっきからカウンターの方で聞き覚えのある声がする。
あの声…
そっとカウンターを見ると、見覚えのある後姿が目に入った。
間違いない、“彼”だ…
昔、一緒に働いていた事のある、彼だった。
仕事上ではクールで我儘だったが、飲むとめっぽう明るくなる彼…
性格も価値観も、私とは正反対の彼…
私は彼が大嫌いだった…
その彼との10年振りの再会。
若かった頃とそのままの彼。そして、すっかり変わり果てた私…。
彼が、帰るために立ち上がった時、
私は思わず声を掛けた。
…××さん…
思いも掛けない偶然。
たまたま友人に連れられてきたこのお店で、
大嫌いだった彼と私の10年振りの再会。
時間が一気に逆回りした。
彼も私もお互いが嫌いだった事が嘘の様に
軽い笑顔を浮かべていた。
彼が帰った後、少しだけテーブルを離れて
カウンターでご亭主とお話をした。
見た目とは違い、優しい目の穏やかな語り口。
今日見てきた舞台の事や、彼の現在…
初めてお話するのに、ご亭主は知り合いの様に
接してくれる。
常連らしい女性が一人入ってきたので、
私はまた、友人の待つテーブルに戻り、
すっかり常温になったワインを飲む。
微かに甘く、そして微かにほろ苦く…
偶然に友人に連れられてきたお店。
様々な今夜の出来事がこの一杯のワインに
凝縮されている様にさえ思えた。
そんな気持ちにさせてくれる
少し不思議な隠れ家の様なお店だった。